主にプラグイン・リバーブを開発しているメーカー、LiquidSonicsから新たに加わったillusion.。ものすごくきめ細やかな音が魅力です。しかしこの製品について、日本であまりレビューしている人がいません。ということで、レビューします。
この包み込まれるような音の感じはなかなかWebではお伝えできないかもしれません。
まずはこのリバーブの特徴のひとつ、Fusion-IRについて説明します。
Fusion-IR
Fusion-IRのことを説明する前にふたつのリバーブ方式を説明します。
アルゴリズミック・リバーブ
リバーブ・エフェクターは実際にホールで演奏した楽器の残響等を機械的に作るものです。初期の頃はスプリング(ばね)を利用したスプリングリバーブや大きな板の反射を利用したプレートリバーブなどがあります。デジタル技術の進歩でこういった物理的な挙動を演算処理して残響を作れる、デジタルリバーブが登場しました。
プラグインエフェクターでいう、アルゴリズミック・リバーブとはこの一般的なデジタルリバーブのことを指します。デジタル演算処理して残響を作るために細かな設定が可能です。
コンボリューション・リバーブ
コンボリューション・リバーブもデジタルリバーブですが、その方法がちょっと違います。
実際にコンサートホールなどの空間の残響をインパルスレスポンス(以下IR)というデータで採取し、その特性を録音したものに反映させます。たとえば自室リビングの部屋の特性をIRデータで収録すれば、それを録音物に再現できるということですね。
実際の残響をもとに作成しているために、自然なリバーブ効果が得られます、しかし細かな設定が出来ません。あまり細かなエディットをするとファイルをいじるために、残響の自然さが損なわれます。ほしい状況に応じた残響を得るためには、IR方式で収録した膨大な量のファイルが必要となります。
Fusion-IR /シンセシス
IRデータのearly reflections(初期反射)とRate Revarb(リバーブ・テール、残響)を新技術でシンセイサイズド(合成処理)出来るようにしたものが、Fusion-IRです。
基本的なIRデータ数種のみで構成されていて、細かな設定はFusion-IR技術で合成処理されます。従来のコンボリューションリバーブのように膨大な量のファイルを必要としなくなったわけです。また、アルゴリズミックリバーブのように細かなエディットも可能です。
illusionはFusionーIR技術を利用した、リバーブのシンセサイザーのようなものなのです。
使ってみた感じ
開発技術的な細かなことは、正直わからない部分のほうが多いです(汗)。ま、ツールというものは、能書きよりも使いこなしてなんぼですから、早速、いろいろ試してみました。
何はともあれプリセット
LiquidSonicsのホームページでAudioデータを聴くことが出来ます。コチラはヘッドフォンなどで聴かれることを進めします。
音源やエフェクターに限らず、チェックするときは「何はともあれプリセット」です。そのまま使え使えるものがあればよし、状況に応じて微調整していけば良いです。充分に使い込んで、慣れれば自分で音を作り込んでいくことも出来るでしょう。
左側のプルダウンメニューから環境や機材の設定選んで、右側のプルダウンメニューからそれぞれのプリセットを選びます。プリセットから各種設定を参照することが出来ますね。少しずつ微調整しながら変化を確認して操作を覚えていけば良いですね。
手持ちの現在作っているプロジェクトファイルのから、リバーブを差し替えて使って比較すればわかりやすいと思います。数種類、比較チェックしてみましたが本当にきめの細かい美しい音です。
余談ですが、サウンドが気に入らなくて放置していた制作のひとつが、このリバーブを使用することで解決しました。
イコライザーがかなり便利
中央下部の三角印をクリックするとイコライザーが現れます。リバーブ全体の音色調整のみならず、初期反射、テール部分のイコライジングも可能です。これがかなり自然で良い感じに仕上がります。
トラックに挿して処理するときには、かなり重宝します。
システムの負荷
2010年製のMac mini(Intel 2.66GHz core2duoメモリー16Gまで増設)という、あえて貧弱な環境でテストしてみました。使用したDAWはWavefrom9です。サンプルレートは16bit 44.1kHz。
Audioファイルはループ素材を利用してみました。ここにそれぞれのトラックにillusionをすべて挿して同時に再生します。同じ条件でトラックをいくつまで作れるか見てみます。
バッファサイズ512で4トラックまでぎりぎり使用できました。さらにバッファサイズを最大値2048まで上げると7トラックまで余裕で作成できました。貧弱なMacとはいえ、メモリー16G積んでいるのも影響しているんでしょうね。
通常こんな使い方はしないので、この貧弱な環境でも通常使用でバッファサイズを最大まですれば、Auxでリバーブを作って、他の軽めのプラグインをトラック挿ししても大丈夫ということですね。
illusionの方でも初期設定ではゼロレイテンシーですが、状況に応じてこれを上げていくことで、さらに余裕ができそうです。
リバーブのプラグインは総じて負荷は高めです。Illusionはその中でも高めの部類に入ると思いますが、上手に使いこなせば通常の作業がこなせるDTM環境では全く問題なさそうです。
念のため、購入される場合はデモ版をダウンロードして、ご自身の環境で確認してからお使いになることをお勧めします。
デモ版のダウンロード
音源もエフェクターも好みの問題もありますから、実際に自分自身の制作環境で試してみるのが一番かと思います。先に書いたCPUの負荷の問題もありますので、特に古い環境でご使用になられる場合は購入前に確認しておいた方が良いです。
illusionは14日間のデモ版が利用できます。
デモ版を使用するには、iLokアカウントが必要です。iLokアカウントにシリアルナンバーを送信。
LiquidSonicsのページよりお使いのOSにあわせてillusionをダウンロード。
音楽を生かすも殺すも
ここのところリバーブにハマってます。今回レビューした、illusion以外にも新製品を含めて気になるリバーブを数種入手しました。エフェクタープラグインの中でも一番たくさん持っているのがリバーブです。順次、レビューしていきたいと思っています。
音楽を生かすも殺すも、リバーブの処理の仕方にかかっていると思います。
空間系エフェクターといわれるように、まさしく音楽が存在している場のコントロールをリバーブで処理します。音楽が何を言いたいのか、何を語ろうとしているのか、その空気を感じて伝えるべき事を伝えるために、生きている音たちをリバーブの満ちた空間に解き放ちます。
それは美しい湖に、そして時には広大な海に魚を解き放つように。
レコーディングのうまい人のリバーブの使い方は、本当に素晴らしいです。そこには音楽へのリスペクトと愛が感じられます。
えらそうなこと書いていますが、ボクも最近になってこのことを強く認識するようになりました、初期の録音処理などを聴くとちょっと恥ずかしいくらいです。
最後に
プラグイン・リバーブはいくつあっても、それぞれに使い道があって邪魔にならないといいます。同じ事をコンプレーサーにいう人もいます。いやいや、シンセ音源もそれぞれ味があって必要だよーという人もいます。
その口車に乗って(笑)どんどん買い足していってDTMerは、プラグイン地獄に陥ってしまいます。自分もそのクチです。そういえば、ずいぶん前にギタリストの友人が「ギターは何本持っていてもそれぞれ個性があるから云々...」の話を聞かされたことがあります。
結論からいうと、お金でも物でも「使いこなせない人間がたくさん持っても意味が無い」のです。
ある分野で達人級の人たちは、各自それぞれに精通するツールをたくさん持っています。しかし、おそらく常時使うのは2つか3つくらいでしょう。常時使うモノとは別に、微妙な表現の違いのために複数種のツールをたくさん持っていて、時々をそれを引っ張り出します。だから、いくつあっても邪魔にならないのです。
達人級でもない人がこれをまねしても、どれがどれかさっぱりわからなくなったりします。ハッキリいって邪魔になります。
じゃ、これひとつだけ持っていたら万事OK、みたいのあがあるかというと、ありません...。
だからやれることは、ひたすらひとつひとつのツールに対して、掘り下げて使いこなして自分のモノにして、達人級の人たちの足下に近づく努力をするしかないのです。
ということで、只今努力真っ最中です。
で、そんな達人たちの足下にも及ばないボクですが、illusionは常時選択する2つか3つのうちのひとつになりそうな、そんなリバーブです。
この記事を書いた人
[Music Freaks]
日々、ピアノを弾くことで生計を立てています。アコーディオンも弾きます。そしてひたすら音楽製作してます。人の多い場所と鈍感な人、苦手です。音楽と共に生きてくことは愉しい、すべての人がそう思えるような世界を考えていきたいです。
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